2015年5月27日にリリースされた話題のサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービス「AWA(アワ)」。大手エンタテインメント会社であるエイベックスとサイバーエージェントの共同プロジェクトとして開発され、エイベックスが楽曲の手配を、サイバーエージェントがアプリの開発・運営を担当しています。

日本発のサブスクリプション音楽サービスである点や、IT業界大手のサイバーエージェントと、エイベックスという音楽業界の雄が、自らプロジェクトを主導したことでも話題になりました。その注目度の高さを示すように、サービス開始からわずか3日でiOSアプリストア総合ランキング(無料)1位を獲得。さらに、リリースから2週間後の6月10日には、累計ダウンロード数が100万を突破するなど、好調な滑り出しを見せました。

ところで、定額制の音楽配信サービスといえば、海外ではすでに一般的なサービスであるにも関わらず、日本ではあまり普及せず、これまでに大きく成功した例もありませんでした。それが、AWAに続いて「LINE MUSIC」「Apple Music」がリリースされて話題になるなど、ここに来て急に盛り上がりを見せています。その裏にはどんな業界事情があるのでしょうか?

AWAの気になる開発の裏側を、エイベックス側の担当者として実際に著作権管理団体や各レーベルとの契約条件調整などを担当されたプロジェクトの主幹、AWA株式会社の西澤力さん・下村武さんに聞いてきました!

日本発・定額制音楽配信サービス「AWA」ってどんなサービス?

「AWA」の特徴は、なんといってもインターネット企業であるサイバーエージェントと、音楽レーベルであるエイベックスが手を組んだこと。サービスリリース時に、サイバーエージェントの藤田晋社長が自らのブログで「エイベックスの松浦社長が長年悩んでいた企画」「プロダクト面をサイバーエージェントが担当した」とつづっています。音楽業界のいわば「当事者」だからこそ、こだわったポイントなどはあるのでしょうか?

サービスコンセプトは「音楽との新しい出会い」

AWA株式会社・経営管理部部長 西澤さん(以下、西澤さん)「AWAでは、ユーザーと音楽の出会いを提供することを意識しています。」

以前はテレビの音楽番組や、CDショップでの視聴が音楽への「入り口」でした。しかし、インターネットの普及とともに、今や子どもでさえもYouTubeで映像や音楽を探せる時代です。

西澤さん「ユーザーと音楽の出会いは多様化しています。CDの販売数も減少する中で、新旧の音楽とユーザーをどのように結びつけるか、という点に注力しました」

その「出会い」を創出するのが、AWAの特徴であるプレイリストリコメンド機能です。

プレイリストはいわば、自分のコンピレーションアルバム

プレイリストは、「海で聞きたい曲」「夏フェスでおさえておきたい曲」など、ユーザーが好みの曲をピックアップして公開するリストです。例えるならば、自分がDJとなってコンピレーションアルバムを作るようなイメージです。

AWA株式会社・経営管理部担当課長 下村さん(以下、下村さん)「ひと昔前は、自分で編集したカセットテープに音楽を入れて貸し借りしていましたよね。その現代版がプレイリストです。ユーザー同士で、自分のお気に入りを『聞いてみてよ』と公開できる。若い人でも、プレイリストで古い名曲に触れることができたりする。そんな偶然の出会いを創出できればと」

AWAでは人気のDJや音楽プロデューサーなどのアーティストも、自分のプレイリストを公開しています。お気に入りのあのアーティストが、プライベートでどんな曲を聴いているのか、気になりますよね。

ちなみに、このアーティストによるプレイリストは、アーティストが自主的に作っているものだそう。アーティストとファン、プロとアマチュアの垣根を越えて、音楽を共有できるのがAWAの面白いところ。

さらに、自分の作ったプレイリストがアーティストの目に触れて、お気に入りに追加してもらえることだってあります。実際にユーザーの中にも、有名アーティストから自分のプレイリストに「Favorite」がついた!という方がいるとのこと。憧れのアーティストが自分のプレイリストを再生してくれるかもしれない・・・そんな体験は、まさにソーシャルなインターネットサービスならではと言えるでしょう。

「なんとなくこんな感じの曲」に出会えるリコメンド

リコメンド機能では、曲・アーティストまたはジャンルを選ぶと、AWAが雰囲気の似た曲を自動的にセレクトして流してくれます。もちろん、それまで聞いたことのない曲や、知らなかったアーティストが出てくることもあります。

下村さん「リコメンドエンジンというのは、データが集まれば集まるほど生きてくるものですよね。DL数が累計100万を超えた今、まさにチューニングを重ねていますので、精度は日々高まっています」

アプリを使えば使うほど、新しい音楽と出会えるいう仕組みです。自分で選んだものだけを聴いているより、ずっと幅広い音楽に触れられますね。

ターゲットは「本当に音楽が好きな人」

西澤さん「開発当初からのターゲットとしては、特定のアーティストのファンというよりも、音楽そのもののファンをイメージしています。例えば、20代のコアなミュージックが好きな層や、40代で若いころ音楽にのめりこんでいたような人たちですね。なんとなく新しい音楽に触れる機会が減ったな、と思っている人に、ぜひ使っていただきたいと思っています」

そんなターゲットイメージに合わせて開発された、洗練されたインターフェースもAWAの特徴のひとつ。美しい写真と音楽以外の要素を削ぎ落としたフラットなデザインは、使い勝手がいいだけでなく、音楽を楽しむという行為自体を演出するものとして制作されたそう。

「音楽にもっと触れたい」「あの頃みたいに音楽を楽しみたい」というニーズに答える、本当に音楽が好きな人のためのサービスとして、AWAははっきりした方向性を持っているのです。

音楽配信サービスの「利益」と「権利」

音楽配信サービスと聞くと、気になるのは「利益」と「権利」の問題。CDと違って曲ごとの売上が発生するわけではない定額制サービスの収益構造と、制作者以外に音楽レーベルや芸能プロダクションなどが混在する中での権利処理の問題はどうなっているのでしょうか?

ユーザーの「使用料」はAWAを通じて作り手に還元される

定額制サービスのメリットは、なんといっても安い利用料で音楽が聴き放題ということ。AWAを初め、最近スタートした3サービスはどれも月額300〜1,000円程度で利用可能となっています。ユーザーにとってはうれしいポイントですが、果たして提供側の利益は成立しているのでしょうか?

西澤さん「ユーザーにお支払いいただく利用料金が、楽曲の使用料として音楽レーベルを通して『アーティスト(歌手)』に、JASRAC等の著作権管理団体を通して『作詞家・作曲家』に分配されるようになっています」

ユーザー1人当たりからの収入はCDよりは当然少額になりますが、幅広いユーザーに利用してもらうことで一定の還元額を確保するというのが定額制サービスのビジネスモデル。

AWAのように100万DLともなると、単なる売上の問題だけでなく、音楽との接点を増やすことで新しい顧客とアーティストがつながり、CDの指名買いやライブへの集客に発展するなど、認知面でのメリットも大きいと言えそうです。とはいえ、収益のもう一つの柱として、アプリ上からの広告収入も考えられそうですが・・・?

下村さん「広告掲載による収入も、今後、内容次第では検討する可能性もあります。しかし、あくまでベースは会費収入だと考えています」

仮にアプリのインターフェース上に広告を掲載するとなると、デザイン性や操作性が失われることが往々にして起こりがちです。AWAでは、まず音楽との接点としての設計を重視してスタートしたということですね。

「著作権」はあくまで制作側のもの

利益構造と同様、気になるのが著作権に代表される権利の問題。多数の大手音楽レーベルから楽曲提供を受けているAWAでは、権利の問題はどうなっているのでしょうか。

西澤さん「まず、音楽の各権利は『音楽レーベル』『アーティスト(歌手、演者)』『作詞家』『作曲家』等、各権利者それぞれに帰属するということが前提としてあり、それは音楽配信の場合もCDの場合も変わりません。ですから、AWAでは音楽レーベルや著作権管理団体から楽曲の使用許可をいただいています。使用料についても、もちろん契約通りお支払いしています」

インターネット配信にはコピーコンテンツの問題が常につきまといますが、AWA上では権利問題はクリアになっているとのこと。たとえばAWA上で表示される曲のタイトル、ジャケット写真についても、権利元の許可を得た公式データが使用されています。

利益と権利の問題を超える「業界の問題意識」とは

順調なスタートを切ったかに見えるAWAですが、音楽業界内には音楽配信サービスに対する抵抗も根強いそう。その理由としては、一定額を支払えばレーベルやアーティストを問わず楽曲が聴き放題である点や、CD売上に比べて利益が低い点があげられます。

開発に際し、各方面からの楽曲提供許可を得るに至った経緯とはどんなものだったのでしょうか。

西澤さん「各社に協力をお願いするに当たってまずお伝えしたのは、アーティストや作詞家・作曲家さんたちのことを深く理解しているということです。抱える課題感は同じであると訴えたうえで、縮小傾向にある音楽市場をともに盛り上げていきたいとお話ししました」

制作者サイドとして、音楽業界の未来をどう考えるのか?現在、日本の音楽業界は依然として収益の7割をCDの売上に頼っており、音楽配信サービスについてはCD主体の収益構造が壁になっているとも言える状況だそう。これは欧米に比べるとかなり特殊な状況で、アメリカでは音楽業界全体の売り上げの約7割を配信が占めているというのですから、日本とは逆転現象にあるといえるでしょう。

しかし、長らくCD売上に頼ってきた日本の音楽市場も、全体の収益は確実に縮小しており、新しいファン層を獲得していかなければ業界全体が縮小してしまう、という危機感は、業界に共通するものでもあるようです。

西澤さん「海外では数年前から配信サービスが主流になっており、日本でどう実現するかというのはずっと課題としてありました。ですので、今回AWAがリリースされたのも、特別に速い流れだとは思っていません。とはいえ、ここに来て他社さんも含め、定額配信サービスのリリースが続いている背景には、CD売上の問題もありますが、通信環境が整ってきたというのも大きいのではないでしょうか」

業界の問題意識に加え、世の中の興味・感心が高まっているところにwi-fiなど通信環境の改善が作用して、音楽配信へのハードルが下がったことがAWAリリースの大きな追い風になったと言えそうです。

西澤さん「我々としては、AWAという事業を成功させることも大切ですが、音楽業界自体を元気にしていきたいと、そこに尽きますね」

相次いで登場する定額制音楽配信サービス

2015年にサービスが開始された「AWA」、そして「LINE MUSIC」、「Apple Music」。各社のサービスにはどんな違いがあるのでしょうか?

オシャレなAWA、身近なLINE、圧倒的曲数のApple

サービス名 利用料金 配信曲数
AWA ライトプラン:360円/プレミアムプラン:1080円 500万曲(2015年末)
LINE MUSIC プレミアムプラン:1,080円(学割600円) 150万曲(サービス公開時)
Apple Music 9.99ドル(約1,200円) 3000万曲以上

基本的な料金・配信曲数は上記の通り。各社の特徴は、

  • AWA:圧倒的にお洒落なデザインで、アカウント不要で使える。プレイリストの視聴や作成の他、リコメンドやディスカバリーなど、未知の音楽に出会うための機能が充実。
  • LINE MUSIC:馴染みのあるLINEらしいインターフェース。聞いた曲を手軽に友達とシェアできるソーシャル機能が特徴。学割価格がある点も注目。
  • Apple Music:なんといっても圧倒的な曲数が特徴。日本版がどこまで対応するか不明だが、世界のアーティストと直接つながる機能などの独自仕様も。

と、それぞれが異なるコンセプトで設計されていることがわかります。

今後はユーザーの好みによって差別化していく?

サプスクリプション型というスタイルは同じでも、想定ターゲットやニーズに応じてそれぞれコンセプトが違う各社のサービス。ここに挙げた以外にも、世界で圧倒的なシェアを誇る「Spotify」の日本版の噂や、「KKBOX」などの国内で先行している他社サービスなども含めて、今後はユーザーが目的や使い勝手に応じてサービスを使い分けていくことが予想されます。

音楽との新しい出会いを求めるか?友達と好きな音楽をシェアするか?目的やライフスタイルによって、インターネット上で自由にプラットフォームを選べる時代がやってきたのです。

出会いの形は変わっても、音楽が持つ魅力は変わらない

ユーザーのもとに音楽を届ける機会を少しでも増やしたい、AWAにはそんな想いが込められています。

西澤さん「音楽は循環するものだと思うんです。どんなにいい曲を作る作り手がいても、聞く人がいなければ成立しない。単に売り上げが落ちるというだけでなく、誰も聞く人がいなくなれば音楽を作ろうとする人もいなくなる。そうするといい音楽自体が生まれなくなるんです」

音楽は循環するもの。制作者側として音楽業界に深く関わっているからこそ、音楽に接するユーザーを広げる機会をもっともっと作っていきたい、と西澤さんは語ります。

西澤さん「今回はサブスクリプション型サービスですが、技術やデバイスの発達にしたがって、いろいろなことにチャレンジできるような未来になればと思います。ユーザーと制作者のメリットが共存共栄していけるようなものを創りだしたいですね」

日本の音楽ファン、音楽業界にとって大きな転換点となったAWAのリリース。2015年は「サブスクリプション元年」と銘打ってもよいほど、その盛り上がりはとどまるところを知りません。

音楽との出会いが、テープの貸し借りというアナログな場から、リコメンドエンジンやプレイリストのシェアといった場に移っても、それを愛する人がいる限り優れた音楽は受け継がれていくことでしょう。

決して目先の儲けや話題作りではなく、音楽と人との関わりについて真剣に考えたからこそ生まれた「AWA」。その開発の裏には、音楽業界人の熱い想いが秘められていたのでした。

今回お話をうかがったのはこちら!

(写真右)AWA株式会社・経営管理部部長 西澤 力さん
(写真左)同 担当課長 下村 武さん

(image by AWA株式会社)
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(image by nanapi編集部)