ほぼ情報が表に出ず、公開前の試写もほとんど行われず、期待と不安が入り混じるなか遂に劇場公開が始まったハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」。

日本のアニメ版「攻殻機動隊」シリーズを世に送り出したProductionI.Gの代表取締役であり、ハリウッド版では製作総指揮を務めた石川光久社長のインタビューを紹介します。

すでに観た人も多いでしょうが、このインタビューの中に隠された攻殻機動隊のブレイクスルーというキーワードを胸に2回目を鑑賞すれば、また違った見方が出来るかもしれません。

※本インタビューは試写、及び公開前の3月9日に収録されたものです。

ハリウッド版は驚くことばかり

編:今日は宜しくお願い致します。石川さんもまだ完成版はご覧になってないと聞きました。

完成したのは(インタビューの)3日位前なのかな。ホント、ギリギリまで作っていたようです。フィルムでは未見ですが、シナリオや現場、設定はすでに拝見しており「あぁ、こんなところまで考えているのだな」と驚くことばかりでしたね。世界観の作り込みも含めて、本気度、そしてお金の掛け方は違うなと特に感じました。

編:今回はアニメ版の人形使いの物語とは違う、また新しい話と聞きました。

ベースは士郎(正宗)さんの作品であり、その漫画があって、映画では押井守監督、テレビでは(「STAND ANONE COMPLEX(以下、SAC)」の)神山健治監督、そして実写映画でのルパート・サンダース監督とそれぞれがパラレルの世界として存在しているんです。それは士郎さんも「それでいいんだ」と認めていますし。映画の延長としてテレビでこうやる等というそういう作り方ではなく、それぞれが世界を拡張していく役割を担っている訳ですね。

編:攻殻機動隊という漫画が種になってそこか様々な芽が伸びていくと。

そうですね。それを士郎さんも望んでいる事でしょう。
監督の才能は勿論ですが、(今回の実写版はこれまでのアニメ版と異なり)徹底してエンターテインメントにこだわった作品になっていると思いますね。

編:アニメーションと、VFXを使った実写では当然作り方も異なると思います。アニメーションが主な会社の事業であるI.Gが今回実写映画に深く関わる事になり、そこで得た感想はありますか?

今までI.Gでも大きく全面に出ることはないにしても幾つか実写映画には携わってきました。しかし、やはりハリウッドが本気になった時の時間とお金の掛け方は半端ないな、と身に染みて感じました。

編:エグゼクティブ・プロデユサーという肩書きで実際にどのような役割を?アイディアの提供ですとか、そういったことを実際にされたのですか?

実制作にかかわる部分はすべてハリウッド側にお任せでした。
海外のモノと日本のモノは文化などいろいろ違ったりする部分があるので、そこで引っかかり(作品作りにおいての思考が)止まりそうになった時、ショックアブソーバー的な繋ぎ役に徹していた気がします。こういう作品においてはそういう役割の人間が立つことは重要な事だと思いますね。

編:石川さんがそういう立場で繋いだものとは何だったのでしょうか

プロデューサーのアヴィ・アラッドと朝までこんな感じでやりたいね、と話ました。彼との関係はI.G USAをの会長になってもらうなど深い結びつきです。単に作品をお互いに預けたとかそういう関係ではなく、代理店やエージェントなどでもなく、俗に言う「友情」とか「信頼関係」という”お金”だけではない関係を築けました。
この攻殻機動隊を作るにあたって、色々縁の下の力持ち的な動きができた。実際には機密保持契約もありなかなか話す事は出来ないのですが、とても勉強になる事が多かった、ということは言えます。脚本に対する時間の掛け方、お金の掛け方、そして妥協しない考え方など、いかに脚本を築いていくか、ものすごく勉強になりましたね。

編:アニメーションとは作り方は違っていましたか

お金の掛け方に違いがあるのは当たり前として、実写は役者、つまり誰が演じるかによってすごく大きく変わるんだなぁと感じましたね。そういった意味でも少佐をスカーレット・ヨハンソンが演じたという事、その生身の役者がいることがまずあり得ない存在でした。

スカーレット・ヨハンソンの色気を封印

編:スカーレット・ヨハンソンはどんな役者でしたか?

人間でもないロボットでも無い、アニマル…例えばヒョウの様に、つねに牙を研いで周囲を見渡しているような女性と言えばいいでしょうか。その彼女が少佐を演じる事の意味と魅力は大きかった気がします。
最初キャスティングが出たときに、一瞬違和感はあったのですが、黒髪でおかっぱで少佐に近づいていく彼女がやがてすごく嵌まって見えるようになってきたんですね。スカーレット・ヨハンソンというと女の魅力を武器にするとか、その色気がスクリーンから薫ることもある役者なのに、今回は全然違ってたんです。彼女の持っている色気の部分を封印し、強さとか鍛えた肉体を前面に出していると。

編:今にして思えばスカーレット・ヨハンソンはベストなキャスティングですね

ポスターのスカーレット・ヨハンソンの表情も完璧。プロポーションも理想的。ここに少佐はいました。

編:香港での撮影現場に行かれたと思うのですが、印象に残った事はありましたか?

面白かったのは、押井監督ははじめは行くのをいやがったんです。
石川に騙されて宣伝の片棒を担がされる。世間の「こんなの作ってる」なんて声もある中で香港への現場視察に参加して、あたかもリスペクトしているような、そんな風に思われるんでしょ?おれそんなの行きたくないよ、と。
ところが行くと、これがもうスカーレット・ヨハンソンにべた惚れ。素晴らしい…世界中どこを探しても少佐はスカーレット・ヨハンソン以外いない、と。あんなに変わる男は見たことはない。でもそういった意味では(ある種認めてくれたという点でも)連れていって良かったですね。それに神山監督にも現場を見て貰いたかったし、3人で行った収穫はあったと思います。何より押井さんのビフォーアフターが最高でしたけどね。

編:押井さんは今回の脚本をお読みになっているのですか?

以前から渡してはいたのですが、香港に行くということもあって、3日前かな、その頃に特に最後の部分を含めて読んで貰ったんです。ただ、脚本自体何稿もあるので、今のものとかかなり違います。それでも全体(の物語の流れ)は掴めたと思いますが。
ですがもう押井さんに関しては、スカーレット・ヨハンソンにただただ惚れ込んで、その出来事が面白すぎて。

文化を越えてアニメに対してリスペクトをしてもらった

編:WETA(VFX制作会社ウェタ・デジタル)にも行かれたとお聞きしました。

たけしさんの台詞などをI.G USA通訳とS.A.C.の脚本を担当していた者で行き、言葉や言い回しのチェックをI.Gとしてやらせてもらいました。

編:勘違いした日本語などの心配が払拭されファンも安心して作品を見ることが出来ると

そうですね。
脚本一つとってもメールが来て12時間後に消去せよみたいなのもあって、ただでさえ英語な上にこんな分厚い脚本を12時間で読めって言うのかよ、とか、飛行機で直接持ってくるとか、いっそ(脚本を)読みたいのならこっち(アメリカ)に来い、とかもう大変で。
しかしそれでも上がったものにはチェックを入れてフィードバックをすると。勿論問題があれば、という話ですけどね。

編:士郎さんからの脚本へのオーダーはあったのですか

士郎さんからの「こうしてほしい」という要望は先方へ伝えてあります。

編:昔、士郎さんの言葉で「(漫画)原作者が深く関わる(映像)作品はダメになる」的なものがあったと記憶していますが、今回は監修として係わると決心したと?

いや、士郎さんのスタンスとしては係わっていないのです。自分はこういう考えで、自分ならこうなんだけど、とは伝えるけれども、それを取り入れるか取り入れないかは監督に委ねます、と。士郎さんの関わり方は映画もテレビも今回の実写版もまったく同じです。

編:ハリウッドで作品化する際、なかなか原作側からの要望を出すことは難しいという話を聞いたことがあります。

攻殻機動隊は、これまで映画もテレビもあって、原作よりも全然多くの物語がすでにあります。普通、漫画があればそれを読んで(実写)映画化する、というのは当たり前なんです。それが文化を越えて、アニメに対してリスペクトをしてもらったという事に関してI.Gからもそのリスペクトへお返しをする、そういう流れがあったという事ですね。

お客さんにそっぽを向かれたら世界が広がらない

編:これからのI.Gの、そして石川さんの展望を教えて下さい

日本発で世界を驚かせたい。お客さんに見てもらい、常に感動を与え続けたいですね。クリエイターを満足させる、監督を満足させる、という順番は逆でいいと思ってるんです。最後が監督でいい。
何がプロダクションで大切かというと、作品を作るということで、スタッフはその決めた「タイトル」に吸収されて集まる。そこにある挑戦が高ければ高いほど実力のある人間、挑戦を求めている人間が集まってくる。その彼らが作品を作ったときに最終的に満足するか、という事は常に気になっています。そして最終的にはお客さんが喜んでくれることが、監督の次回作に繋がる。だから、監督が悦び監督が満足する作品作りを意識しすぎていたら、お客さんにそっぽを向かれたら世界が広がらない、という考えは今回も含め常に胸に抱いてることです。

編:イノセンスはそれと逆の作りかな、とも感じます。石川さんが「回収するまでに10年かかる」と試写でおっしゃったイノセンスの「今」は如何でしょうか?

時代は今、イノセンスを必要としてきたなと感じています。4Kの時代を迎えてきた今、I.Gの作品中、4Kで見るに堪えうる描き込みを行ってるイノセンスの映像美を含め、まさしく今、時代が求めているものを実はあの13年前に作っていたということです。むしろ、この実写版を含めこれからの攻殻の広がりの呼び水ともなるんじゃないでしょうか。

編:来たるべき未来を意識してイノセンスをプロデュースしたのでしょうか?

いや、無我夢中という言葉が一番いいかもしれません。余計な事を考えずにやったことが良かった、という事ですね。体力がある時、やれる時はやったほうがいい。出来るのならとことんやったほうがいい。それが持論です。
今はもう出来ないですよ。あれはお金と体力と気力と才能の結晶でした。

編:4Kリマスター版イノセンスの発売を待ちたいと思います。

答えの一つが攻殻機動隊VR

編:攻殻機動隊の舞台は2029年、あとわずか12年でその時代はやって来ます。ここに追いつくまで攻殻の世界は続いて行くのでしょうか

攻殻という作品に関して富士山に例えるとまだ5合目、まだ半分という気がしています。これから頂上を目指して上り続けていこうと考えています。
攻殻機動隊、イノセンス、SAC、ARISEを作ったことが攻殻の終着地点では無く、むしろまだ道半ばだと思うのです。
作品は振り子だと思っています。世界も映像も未来に行き過ぎると、作品は古き良きものに帰っていく。例えば映像も見た目はそれほど変わらないかもしれませんが、しかし中身は著しく変化していくのです。SAC、ARISEで一度攻殻を壊し、振り子は片側の頂点に大きく振れました。今度は逆の方向に触れる、そんな作品をまた攻殻で作らなければならない、とそう思います。
攻殻で作らなければいけないものは見えた、挑戦するものは明確に出来たんじゃないかなと。
その為に下地はすでにこれまで着々と準備してきたわけですし、攻殻機動隊VR(スマートフォン用アプリ)もそのヒントになっていると言えます。主観と客観映像が入り混じった新しい攻殻機動隊を是非体験いただければと思います。

編:スマートフォンの出現は攻殻機動隊が予言してた未来そのものだと思いますが、石川さんは原作の攻殻機動隊を読まれて何か予見した未来があったでしょうか?

I.Gはアナログからデジタルにアニメーションが変化していく中で、常にその最前線にいた、という自負があります。
CGでアニメーションを作る、それは単なる過程なのですが、アナログからデジタルに移行するというアニメーションの美学が変化する歴史のまっただ中にいた私達は、これからフルデジタルに進むのか、それとも手描きのアニメーションにこだわって作っていくのか、今そこへの最大の岐路に立たされていて、その答えの一つが攻殻機動隊VRなのです。

編:この実写版、そしてお聞きした攻殻機動隊VRと広がり続ける攻殻機動隊の世界をこれからに注目して見ていただきたいと思います。

これからの攻殻機動隊に注目して下さい!

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