寒空のなか、東京都品川区で、スティーブ・ジョブズの知られざる裏話が語られる「非常に興味深いイベント」が開催された。知る人ぞ知る学術的会議「NeXus2016 カンファレンス」(2016年11月26日13:00〜)である。

知られざるジョブズが語られる

ジョブズがアップルを辞めたのち、1985年に創業した「ネクスト・ソフトウェア」(以下NeXT)。このイベントでは、そのNeXTを取り巻く興味深い話が聴ける貴重な場となった。

知られざるジョブズの功績

そのジョブズが歩んできたITの歴史を遡(さかのぼ)るとともに、実際にジョブズと実際に触れ合ってきた人物がトーク。そしてジョブズから大きな刺激を受けてきた「ITの生き証人」たちが思いを話し、ディスカッションした。

ニュースや書籍で語られてきたジョブズの歴史。しかし、そこでは語られていない「知られざるジョブズ」、良い意味でゴシップ的ともいえる「ジョブズの功績」を知ることができる貴重な機会ともいえよう。

日本における「知道」のはじまり

サイバー・ラボ代表取締役社長である加藤康之氏は、日本で育まれてきた文化の根底は、外来からもたらされたと語る。

茶道は奈良時代に中国から、日本刀は約3000年前に大陸から。加藤氏は「日本人は、たとえ武器であっても研ぎ澄ませて、芸術の世界に広げていく」と話し、昭和40年代に欧米からもたらされたIT「知道」(Knowlegeware)が平成時代に日本で広まり、その一端をサイバー・ラボが担ったと語っていた。

サイバー・ラボがNTTの社内ベンチャーとして立ち上げられた1998年は、音楽をデータで聴くことができるデータファイル形式「MP3」が爆発的に広まり、Yahoo! JAPANがインターネットメッセンジャーサービスを日本で開始した年であり、まさにインターネットが世間に広まる幕開けともいうべき年。

日本は欧米からもたらされたインターネットをどの国よりも器用に取り入れて活用し、その裏舞台でサイバー・ラボが「インターネットサービス」の快適化を進めていたのは間違いない。日本における「知道」を育んだといえよう。

ITプロダクトやインターネット技術にジョブズが影響を与え続けてきたのは間違いなく、加藤氏は「残る人生、君は何をやるのか? それがジョブズからの問いかけだと思います」と話す。

彼のパーソナリティから創られた世界

オトトイ株式会社や株式会社ディジティ・ミニミの代表である竹中直純氏は、「2016年現在、ジョブズの遺産でご飯を食べさせてもらっている部分が、多分にあると思う」と語る。

そして2013年に公開された映画「スティーブ・ジョブズ」の主演俳優アシュトン・カッチャーがジョブズという人物を語った言葉を紹介。それは以下のようなもの。

「エレガントで、知的で、思いやりがあって、正確で、芸術的で大胆で、先見性があり、複雑で、効率的で、愉快で、面白くて、パワフルで、不完全で、そして表も裏も美しい」(アシュトン・カッチャー)

普通の人からすれば面倒くさい部分がある人。しかしこういう部分も含めて、彼のパーソナリティから、いまの世界が作られていると竹中氏は語る。

トイストーリー成功までの7年間「荒野の時代」

そして話は、ジョブズがメインステージから姿を消していた「荒野の時代」(1985年〜)に触れる。いわゆる、NeXT時代のことである。

ジョブズはピクサーの仕事をどっぷりしていたと言われているが、1995年の「トイストーリー」まで成果らしい成果はない。とあるところでは「家族との愛を温めていた」とも言われているが、明確に「何をしていたのか」「何に時間をとっていたのか」あまり知られていない。

竹中氏は、「荒野の時代、ジョブズはいろんなことに時間を取られていたが、相当、NeXTのビジネスに時間を使っていた」と話す。ピクサーが「トイストーリー」で成果を出すまで7年間もの空白の期間を作ってしまったのは、ジョブズがNeXTに時間を割いていたからだと推測しているという。

ジョブズの意志方向

「リベラルアーツ」という言葉が、ジョブズのコンテクストでは微妙な意味を持つという。生き方にも通ずるものはあるが、日常とか、しょうもないことに、技術や芸術の要素を取り込み、それを美しくするというのがリベラルアーツの考え方だという。

ジョブズはネクタイを締め、たとえつまらないと思えるエグゼクティブとの会合でも、リベラルアーツ要素を取り入れようとしてきたあとが、現在にも残っていると話す。

社員食堂がまずい!

株式会社XOXZOのエンジニアでありエバンジェリストの野中哲氏の話は、ジョブズ信者にとって非常に興味深いものとなった。あまりにも「ジョブズらしい話」だが、ジョブズが1996年に非常勤顧問としてアップルコンピュータに復帰した際、社内食堂の料理がかなりまずかったようで、ジョブズ復帰初期のミーティングで「社員食堂がまずいからなんとかしたい」という議題があがったという。

すぐさま社内食堂の業者を入れ替え、とても美味しい料理が提供されるようになったという。「俺はエンジニアではなくマーケティングな人間だ。君たちがグレートなプロダクトを作れば俺が売ってやる!」とも話していたそうで、そのあたりもジョブズらしい部分と言えよう。

それぞれのジョブズへの思い

NeXTをメインに知られざる事実が語られた「NeXus2016 カンファレンス」。インターネットやメディアで語られていること以外の「知られざるジョブズ」を知ることができ、さらにNeXTとジョブズに対する熱い思いが語られる、貴重な場となったのは間違いない。

(image by 筆者)